大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)21号 判決

事実及び理由

一  請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

二  そこで、審決に参加人ら主張のようなこれを取消すべき違法の点が存するか否かについて検討する。

1  本願考案の、外付けサツシに雨戸を開閉可能に取付けた構成について

審決は、本願考案の右構成について、「窓枠に障子を開閉可能に備えた外付けサツシは例を示すまでもなく周知であり、このようなサツシに雨戸を取付けることは、一般のサツシに必要に応じて雨戸が取付けられ使用されていることからして単純な設計事項にすぎないものと認める。」としている。

審決の右理由中、窓枠に障子を開閉可能に備えた外付けサツシが周知であつたことは、原告の認めて争わないところである。成立に争いのない甲第二号証(本願考案の公告公報)、第四号証、第七ないし第九号証、乙第一ないし第三号証及び乙第五、第六号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、「サツシ」は、窓枠を意味する英語の「sash」に由来するが、本願出願当時、国内の建築関係業界においては、一般に、建物の窓開口部の枠材に取付けうるように予め組立てられた金属製の窓枠とこれに開閉可能に納められるべき金属枠のガラス戸の呼称として用いられていたこと、この「サツシ」は、従前の、建物の窓開口部の枠材自体に形成されていた窓枠とこれに納められていたガラス戸に代わるべきものとして、昭和三六年ころから開発され、まず、窓開口部の枠内(柱の間)に取付ける構成のもの(以下「内付サツシ」という。)が、次いで、窓開口部の外側に取付ける構成のものがそれぞれ開発されたこと及び本願出願当時、右各サツシのうち、前者はすでに一般に普及しており、後者は開発されて間もない状況にあり、前者と区別されるときは「外付けサツシ」と称されていたことがそれぞれ認められる。

ところで、サツシを使用しない建物については、窓部の窓の外側に雨戸を設けた構成が周知であることは、当裁判所に顕著な事実であり、サツシを使用する場合についても、その外側に雨戸を設けることの必要性やその利点のあることは当然に予測されうるところ、前掲甲第二、第九号証及び乙第五、第六号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、本願出願当時、前記のとおり一般に普及していた内付サツシが用いられるときは、さらにその外側に雨戸枠を取付けてこれに雨戸を納める建築も少なからず行われており、この雨戸枠と雨戸もサツシ製造業者らによつて開発され、当業者間に周知されていたことが認められる。

右各事実によると、窓部に外付けサツシを用いる場合にも雨戸を用いること及びその場合の構成として、窓枠と雨戸枠を別設することなく、予め両者を一体として備えた構成は、いずれも本願出願当時、通常の技術常識を備えた当業者にとつて、きわめて容易に想到しうる単なる設計事項にすぎなかつたものと認めるのが相当である。

したがつて、右判断と同旨の審決の前記判断に誤りはなく、審決がその判断の根拠として示した「一般のサツシ」とは、当事者間に争いのない前記審決の理由の要点及び前記認定の事実によると、前記内付サツシを示すものであることが明らかである。

右認定判断と異なる参加人らの主張(請求の原因4の(一)の(1))はいずれも採用しえない。

参加人らは、また、外付けサツシに雨戸を取付けることを単純な設計事項とすべきでないことの理由として、本願出願と同時期に出願、登録された他の同種実用新案を援用するが、本願考案の実用新案登録の許否の判断が他の同種考案の実用新案登録の許否によつて左右されるべきものではないから、参加人らの右主張は、それ自体失当といわなければならない。

2  本願考案の、外付けサツシの窓枠の側方に戸袋を隣設した構成について

審決は、本願考案の右構成について、「雨戸を使用するには当然戸袋が必要であり、この戸袋を窓枠の間から突出させることなくサツシ一側の空間を利用して設けることが引用例に記載されている以上、外付けサツシにおいて窓枠の側方に戸袋を隣設することは引用例から容易に考案できる程度のものと認める。」としている。

審決の右理由中、引用例に建物自体の造作物として窓枠及びその側方に隣設した戸袋が記載されていることは参加人らの認めて争わないところであり、この事実に成立に争いのない甲第三号証(引用例)並びに弁論の全趣旨を併わせると、引用例には、別紙図面(二)表示のとおり、建物窓口部の造作として、ガラス戸等と共にその外側に雨戸を開閉可能に備えた窓枠及び窓枠の外縁から突出させることなくその一方の側方に戸袋を隣設し、この戸袋に窓枠上の雨戸が連通して出入しうるように収納口を設けた構成が記載されていることが認められる。

そして、右事実に、前記のとおり、外付けサツシに雨戸を取付けた構成がきわめて容易に考案しうること及びその場合当然雨戸を収納すべき戸袋を必要とすることが予測されることを併わせ考えると、本願考案の前記構成は、当業者がきわめて容易に考案することができたものと認めるのが相当であり、これと同旨の審決の前記判断に誤りはないというべきである。

ところで、審決は、引用例記載の前記建物の造作部分を「戸袋付サツシ」と表現するところ、参加人らは、引用例記載の窓枠は「サツシ」ではなく、また戸袋と一体化したもので、審決が引用例を誤認した旨主張する。そして、前記1に認定の我が国における「サツシ」の用語例に照らすと、引用例記載の窓枠は、前記のとおり建物自体に施された造作であるから、これを「サツシ」と表現するに相応しくないし、その窓枠と戸袋は一体化したものでないことが明らかである。しかしながら、審決は、引用例記載の建物窓部の造作の構成を前記認定と同様に認定したのであつて、窓枠と戸袋が一体化していると認定したわけではなく、本願考案のサツシを「外付けサツシ」と、引用例記載のものを「建物開口部外側に取付けられた単なるサツシ」と表現しているのであるから、審決は、引用例記載のものを前記「サツシ」とは異なる建物自体に施された造作物と認定したことは明らかである。したがつて、審決が引用例記載のものを「サツシ」としたことは表現の正確を欠いた点を否めないものの、このことをもつて審決が引用例を誤認したものとすることはできず、参加人らの主張は採用しえない。

参加人らはまた、本願考案の対象となつたサツシと引用例記載のような建物自体に施された窓部の造作とはその製造(製作)及び建物への取付の技術的手段を異にし、これに伴い技術目的も異にするとして、引用例記載の技術事項は本願考案の外付けサツシには転用できないものである旨主張する(請求の原因4の(二))。そして、前記認定のサツシと従来からの窓枠を対比すると、右主張のとおり、両者はその製造(製作)及び取付け手段において異なり、この相違点による技術目的の相違も存するであろうことは推測するに難くない。しかしながら、両者はいずれも窓部の造作建築の技術分野に属するものであり、しかも、前記1のとおり、サツシは、もともと従来からの窓枠及びこれに取付けるガラス戸に代るべきものとして開発され、そのように機能するものである以上、その構成については、常に従来の窓部の造作に基づき、これに代りうる内容の構造のものが考えられなければならないはずのものである。したがつて、参加人ら主張の前記相違点は、外付けサツシにおいて窓枠の側方に戸袋を隣設することは引用例の記載から容易に考案できる旨の審決の前記判断を左右しえないものといわなければならない。

3  本願考案のその余の構成について

参加人らは、審決は本願考案の、窓枠の一側外端部に雨戸収納口を設け、かつ、該雨戸収納口に連通するように戸袋を隣設させる構成についての判断を欠く旨主張する。

しかしながら、引用例には建物自体の造作として、本願考案の右構成と同じものが記載されていること及び審決がその旨の認定をしていることは前記のとおりである。しかも、前記のとおり、外付けサツシにおいて窓枠の側方に戸袋を隣設する構成がきわめて容易に考案しうる以上、本願考案の右収納口に関する構成は当然に予測されるものである。

そうすると、審決は本願考案の前記構成については、引用例記載の建物窓部の構造を認定し、かつ、本願考案の窓枠の側方に戸袋を隣設する構成についての判断を示すことによつて、これを当業者がきわめて容易に考案することができるものと判断していることは明らかであるというべきである。したがつて、参加人らの前記主張もこれを採用しえない。

4  本願考案の効果について

参加人らは、本願考案は外付けサツシの量産を可能にし、かつ建物窓部の造作工事を簡易化するものであり、これが格別に優れた効果とされるべきものである旨主張する(請求の原因4の(四))。しかしながら、参加人ら主張の効果は、いずれも本願考案の構成から当然に予測されるものであり、本願出願当時開発されていた外付けサツシや内付サツシの効果に比べて格段に優れたものと評価されるべきものではない。

したがつて、参加人らの前記主張も採用しえない。

以上の次第で、参加人らの主張はいずれも理由がなく、審決にはこれを取消すべき違法は認められない。

三  よつて、審決の取消を求める参加人らの本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

窓枠に障子および雨戸を開閉可能に備え、かつ建物開口部外側に取付けられる外付けサツシにおいて、前記窓枠一側の縦枠外端部に雨戸収納口を設けるとともに、同収納口に連通するように戸袋を前記窓枠の側方に隣設せしめて前記雨戸を前記戸袋に収容せしめるように構成したことを特徴とする戸袋付外付けサツシ。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!